「本当!?本当に!??」 「う、うん、そういうことになっちゃった…みたい」 「会いたかったよ、マコ」 そう言って背中から抱き締めてくるのは兄の一秀。 「うれしい、マコと一緒だなんて」 そう言って前から抱きついてくるのは弟の一輝。 「ははは、俺も二人に会えてうれしいよ」 一向に緩む気配の無い再会を喜ぶ二人の抱擁に、ラフな格好に着替えた栄盛が開いたままになっていたドアをノックした。 「出前届いたよ、ご飯にしよう。お前たちも着替えて来い」 栄盛を一瞥した双子はもう一度ぎゅっと抱き締めた後、腕を解いた。 「「じゃぁ、またあとでね」」 ちゅっと音を立てて左右から頬に触れた二つの唇に、びっくりして咄嗟に両頬を押さえた。 ネクタイを緩めながら部屋を出て行く同じ二つの背中が見えなくなるまで動けなかった。 現実に引き戻したのは栄盛の笑いを含んだ声だった。 「真は愛されているね」 「ぇ、えぇぇぇーーー!!!」 くすくす笑いながら栄盛はリビングに戻っていく。 陶器の微かなぶつかり合う音と二人分の声にリビングを伺うようにそっと顔を出した。 栄盛ともう一人背広を脱ぎネクタイを肩から後へ流した男がいる。 スラリと均整のとれた長身の栄盛と引けを取らないくらいにスタイルのいい男だった。 俺に気付き、目が合うと持っていた皿を置き丁寧に頭を下げた。 「はじめまして、私は黒川と申します」 「あ…」 「はい?なにか…」 黒川の言葉に巽を思い出した俺に、本人の黒川と栄盛が首を捻る。 「真?」 「うぅん…はじめまして、今井真です。黒川さん」 「よろしく、真君。私は栄盛さんの第1秘書課に勤めています」 「気持ち悪いな、猫を被るな」 横槍を入れる栄盛に黒川は視線を流しただけに終わり、また皿をテーブルに並べ始めた。 「黒川とは高校時代からの悪友だよ、真」 「そうなんですか」 皿を並べ終えた黒川は、俺の方を向くと、張っていた気を解くかのようにふっと笑った。 「堅苦しいのはよそう。栄盛とはよくツルんでいたな」 一歩一歩近づいてくる度に俺は黒川の顔を見上げる。 そして見上げている俺に、黒川は少し腰を屈めて顔を覗き込んできた。 「ふぅん、君が真君か」 顎を一撫でしたあと黒川は振り返って栄盛を見た。 「人の顔色ばかり伺って小さく怯えた子犬?でかいじゃないか」 「でも、かわいいだろ?」 「俺にはそこらの普通の男にしか思えんがな…真君、自分の意見はしっかり発言したほうがいいぞ」 「……は、はい」 黒川の言葉が俺の心の中に闇を作る。 ―――栄盛にそんな風に思われていただなんて… 「コイツには特にはっきり嫌な事は嫌って言わないと」 拳を作り立てた親指で栄盛を指す黒川を見れずに足元に視線を落とす。 確かに俺は親の顔色ばかり伺っていた。 自分が気付かないうちに自然に身につき、親と関係の無い人にさえ顔色を伺い一線を引いてみるようになっていたのかもしれない。 黒川が「コホン」とわざとらしく咳払いをして俺の頭をくしゃくしゃとかき回した。 「君の事はいろいろ聞いている。戸惑うこともあると思うが……まぁ、なんだ、言わないと相手に伝わらないんだからな」 真っ直ぐな黒川の視線を逸らすことが出来ない。黒川にしっかりと捕まえられた。 「何でも遠慮なく言え、受け止めてやる。俺が」 「黒川、何でお前が入ってくるんだ」 「なんか、いるんだよなぁ。こういうほっとけないタイプ。捕まっちまったみたいだ」 声を立てて笑いながら黒川は届いた出前の包みを開きにかかった。 「真、だめだよ?黒川はね同じ人と歩いている日はないくらい毎日浮気するんだから」 「いやいや、真君、気をつけたほうがいいぞ。コイツの場合は想うというよりは寧ろ念に近い、ストーカー並に執念深いぞ?」 「失礼だな。念というならば憶念と言え」 「どっちにしろ念から離れないんじゃないか」 「黒川さん、兄さん、マコが引いてるよ」 俺は双子が来たことで場の空気が違う方向へ流れ出したのを感じて安堵した。 心の暗い闇を隠すように俺は笑顔を作った、気付かれないように。
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