「上司に報告を怠るとは…。いったい何を考えているんだ?だいたい君たちは私にプログラムが完成したと言ったね。完成したということは動作確認をして問題が無いということではないのか?だいたい菊池、君がいながらそんな当たり前のことを」 「織田部長」 晋也は圧力的で咎める口調の織田を止めた。 「昨日のシステムテストの件について彼らからの報告をこれから聞く予定でした。商談があったとはいえ、私の代わりに立ち会って下さりありがとうございました。急遽、宗宮エンジニアリングから呼ばれても私の方もA大付属病院チームの方に呼び出されてしまって…今朝からも付きっ切りでして」 晋也はバツが悪そうに顔を歪めた。 けれども、こんなことが言い訳には出来ないことを晋也はわかっている。 実際こうして言いに来るくらいだから、織田にとって許せないトラブルがあったのだろう。 「すぐに彼らから報告を聞き、改めてさせて下さい。すみませんでした」 完璧を望む織田のことだから、きっと先方で恥をかいたのかもしれない。 そう思った晋也は、頭を下げた。 「わかった」 納得もいかず言い足りなかったのだろう、渋々とあからさまにわかる口調で織田は頷き、退室した。 「すみませんでした」 菊池が織田の背中が見えなくなると晋也に頭を下げた。 それを見た仁科と村井も急いで頭を下げた。 「今日の氷帝はいつにも増して機嫌が悪いなぁ」 こんなことを言ってはいけないことだと解ってはいるのだが、晋也が笑って見せると強張った表情をしていた3人が緊張を少しずつ解していく。 「さてと、昨日何があったんだ?」 菊池が説明のために口火を切った。
柱に掛けられた時計は19時を回っている。 一人、また一人「お先に失礼致します」と頭を下げて帰宅していく。 フロアの社員は数えられるほどになり、静けさが訪れる。 照明も節電のために必要な箇所以外落とされ始めていた。 「どうだい?修正できた?」 晋也が差し入れにコーヒーを手渡すと、「ありがとうございます」と頭を下げた仁科が困った表情で晋也を見上げた。 「課長。……まだもう少しお時間頂けますか?」 「わかった。あまり時間が取れないからわからないことがあるなら聞いて」 「はい…すみません」 両手でカップを包み込むように持ちながら、しゅんと肩を落とす仁科に晋也は苦笑して肩を軽く叩いた。 「ほら、元気出せ」 「はい。すみません」 「谷原課長、お疲れ様です」 菊池と村井がコンビニの袋を持って帰って来たところだった。 今日は3人で残業なのだろう。 「菊池。…君に任せっきりで悪かった。私も手伝うよ」 「そんな…………すみません」 菊池は自分に任された仕事を果たせずに落胆する。 「気を落とすな。A大付属病院の件で人員を割いてしまったとはいえ本来なら3人でやるプロジェクトじゃないんだ。仁科も村井も悪かったな…」 頭を下げる晋也に、菊池、仁科と村井も、非があるのは晋也ではない、自分たちの方だと三者三様に大きく首を振った。
 |